ものの見方と描き方が変わると生きた線が生まれる飛び級デッサン

必要最小限の線、生き生きとした線、勢いのある線、デフォルメされたフォルム。
これらは、じっくりと時間をかけて上手(リアル)に描けるようになった後に、徐々に身に付くものと思われがちですが、じつは、ものの見方と描き方を変えるだけで、一気に描けるようになります。

49歳のYさんは、小学生の頃は絵が得意で、しょっちゅう学校代表に選ばれていましたが、以来、ほとんど描いたことがなかったそうで、教室に来て30数年ぶりに鉛筆と画用紙で似顔絵を描きました。
まず1枚目。こちらからは何も伝えず、絵が得意だった小学生の頃を思い出し、Yさんのやり方で描いてもらいました。

Y1

よく描けてますね!「悪いけど俺、小学生の頃めちゃくちゃ絵がうまかったよ」という本人評は嘘ではなかったようです。
これだけでも十分「絵の上手い人」だと思いますが、ここから、最小限の、生きた線で、シンプルな絵にチャレンジしてみます。

このとき、「最小限の、生きた線で、シンプルな絵を描く」と意識してはダメです。
必然的に最小限&生きた線&シンプルにならざるを得ない描き方をするのです。

その結果、2枚目はこうなりました。
Y2
シンプルになりましたね!線が生きていますね!大事なのは、その描き方をしたら「自動的にこうなった」ということです。
この時点で、Yさんの「顔の絵というのはこう描くもの」という小学生以来の定説は壊れました。

「自由に、生き生きと描いてみて」と言うと、つい感情を盛り上げようとしてしまいがちですが、どちらかというと、盛り上がった感情で描くのではなく、手が自由に生き生きとならざるを得ない状況をつくりだして、その手の動きを見て感情が盛り上がる、という状態が理想です。

3枚目、ジョニーデップを描いてもらいました。「ジョニーデップそっくりに描こう」という意識が入り込む余地のない、新たな制約を設定。
Y3
勢いがある!デフォルメがおもしろい!「目の位置はココ」という観念からも自動的に解放されました。絵に対してYさんはすっかり自由!です。

4枚目。さらに別の制約のもと3分で描いた小林旭。
Y4

飛び級のゴールが小林旭で良いかどうかは別にして(笑)、ものの見方、方法論を変えることにより、たった1時間、たった4枚で、ここまで絵が変ってしまうのがおもしろいですね。

そして終了後のYさんの感想。「!枚目の絵、キライ。自分じゃない」。。おもしろい!




ABOUTこの記事をかいた人

1965年生まれ。セツ・モードセミナー卒業。1990年より創作活動を開始。 人間の顔をメインモチーフに、様々な表現法を駆使して作品を量産。2003年、バーチャルタレント集団 「キムスネイク」を生み出し、個性的なキャラクターのアニメーションを、テレビ番組やCM、WEB等で発表。 主な仕事:「ベストハウス123」「マツコの知らない世界」「GLAY」「VAMPS」など。 主な受賞:第7回イラストレーション誌「ザ・チョイス」大賞受賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバル(2010)など多数。 絵の講師歴25年。 神戸芸術工科大学非常勤講師