「快画で絵を描く面白さを伝えたい」月刊情報紙Wendy掲載

月刊情報紙ウェンディ 全国版353号 掲載

25歳でフリーランスになって以来、53歳の今日までイラストレーターという肩書きで仕事をしてきましたが、ここ数年、イラストレーターと名乗ることに違和感を覚えるようになってきました。

たぶん、イラストレーターの仕事よりも、2014年から主宰している創作教室のほうが俄然面白く、仕事としてもクリエイティブとしても、やり甲斐が出てきたからなのだと思います。25歳から専門学校や大学でイラストの講師をしてきましたが、ずっと主軸はイラストレーターであり、講師は副業という意識でした。しかし、ここ数年でそれが逆転しました。

創作教室の受講生と毎日のようにオンラインで個人セッションし、クリエイティブについてあれこれ語り合うことがとても楽しく、お互いが成長し合っていると実感できます。2015年から始めたワークショップ・快画塾もしかり。

もちろん、イラストの仕事をやめるわけではないのですが、イラストレーターという職業のあり様は、創作教室を続けていくなかで変えていきたいと思っています。これまでのように、気まぐれな時代の流行りや、発注者の気分に翻弄されるのではなく、独自の美意識に根ざした創作活動を行い、イラストレーションは数多の展開のなかの一つと捉えていければ、と考えています。

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「快画」とは、ひと言で言うと、誰でもすぐに絵が描けるようになるデッサン術です。快画の技法や思考法は、頭を捻って考え出したわけでなく、自分が25年余り続けてきた、ペインティング、コラージュ、キャラクター、アニメーションなど、様々な表現方法を通じて得た発見を、独自に体系化したものです。これまでに北海道、仙台、東京、神奈川、名古屋、京都、奈良、大阪、神戸、広島で開催し、700名以上が参加し、好評を博しています。

快画の快は、「あー気持ちいい」という高揚感からくる気持ち良さではなく、どちらかというと「無」の気持ち良さに近いものです。ワークショップではよく、野球のホームランに例えて説明するのですが、野球の試合でホームランを打つと気持ちいい。でも、打つときに「あー気持ちいい」なんて叫んでいたら、ホームランは打てません。打つ瞬間というのは無意識の状態です。その状態を後で思い出したときに「打った瞬間、気持ちよかったなあ」となる。

快画も同じで、描くときに「あー気持ちいい」とは感じません。来た球に無心でバットを当てるように、見えるものを自動的に紙に記録します。目的はヒット(良い絵)またはホームラン(傑作)。目的達成のために、無になるのです。結果を期待せず、子どものように無邪気に楽しむ。これは絵で傑作を生み出すコツでもあります。

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快画を通して、それまで全然描けなかった人が急に描けるようになる様子を目の当たりにして、絵を描くことはもともと人間に備わった能力だということが分かりました。快(=無)状態になれば誰でも描けるのです。

快画のワークショップが楽しいのは、そんな人が「無」になる瞬間に立ち会えるから。これはかなりエキサイティングな体験です。「快=無」。観念を取り払うと、突然描けるようになる。同時に気持ちも解放され、表情が変わる。教室全体の空気も熱気を帯びていく。その感じが心地いいのです。

4月末に初の試みとして、吉祥寺で快画塾フルコースを開催しました。通常は3時間のワークショップが、フルコースはその倍の6時間。10時にスタートしてドドドッと16時半まで、奈良、千葉、平塚、横浜など、遠方からの参加者とともに、白熱の6時間でした。

5月半ばには3日間に及ぶ快画ツアーを敢行。名古屋、京都、奈良、大阪でワークショップを開催し、約80名の方に快画を伝えることができました。毎度のことながら、快画の威力は凄まじく、描けなかった人が見違えるように描けるようになりました。

京都で快画塾を終え、祇園界隈を散策し、川べりの洋食屋で一人ビールを飲みながら受講者の感想カードを読んだとき、「あ、俺、人の役に立ってる。喜んでもらってる」という多幸感が自分の中にふつふつと沸き起こってきました。

これまでも人に絵を教えてきましたが、少しでも相手の役に立つように、何かひとつでも学びや発見があるように、という気持ちはありましたが、自分の喜びとして感じたことはありませんでした。教える側が喜んでいてはいけない、と考えていたのでしょう。それが今回、自分の喜びとして、ズシリと至福を感じています。

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ワークショップの受講生が創り出す作品を見るうちに、人はそれぞれ唯一無二の個性を持っており、本人が自覚しようがしまいが、その個性はどれもみんなユニークで圧倒的だということが分かってきました。何をやったって自動的に個性になるのだから、究極はもう、ただ存在しているだけでOK! 逆説的に言うと、個性というのは、存在が発したエネルギーに過ぎず、実態など無いので、そこに意味など見出そうとせず、ただそのユニークさに圧倒されつつ、喜び、楽しめばそれでヨシ! つまり、快。つまり、創造。どうしたってそこに行き着きます。

快画のワークショップ申し込みフォームのメッセージ欄には、「子どものときのように楽しく絵が描きたい」「いつのまにか絵を描くのが苦痛になってしまった」と書く人が多いのですが、そんな人たちにこれからも快画を通じて、絵の面白さを伝えていきたいと思っています。






ABOUTこの記事をかいた人

1965年生まれ。セツ・モードセミナー卒業。1990年より創作活動を開始。 人間の顔をメインモチーフに、様々な表現法を駆使して作品を量産。2003年、バーチャルタレント集団 「キムスネイク」を生み出し、個性的なキャラクターのアニメーションを、テレビ番組やCM、WEB等で発表。 主な仕事:「ベストハウス123」「マツコの知らない世界」「GLAY」「VAMPS」など。 主な受賞:第7回イラストレーション誌「ザ・チョイス」大賞受賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバル(2010)など多数。 絵の講師歴25年。 神戸芸術工科大学非常勤講師