個性とは

絵:成田汐織

教室では「受講生それぞれの個性を引き出す」ことを目的の一つに掲げていますが、じゃあ個性ってナンダ?について書きたいと思います。
個性というのは、引き出すタイプのものと、作り上げるタイプのものがあると思います。
たとえば、まだ誰もやったことのない、斬新で奇天烈でアッと驚くような作品を作りたい!という人がいたとして、その人の素地にそのようなハデハデの個性が眠っている場合は、それを「引き出す」ことになりますし、ハデハデ要素がない人の場合は、新たに派手な個性を「作り上げる」ということになります。
むかし、僕が絵の学校に通っていた頃に、こんなことがありました。

同級生に、滅多に笑わない、滅多に喋らない、たまに喋っても声が小さくて聞き取れない、人の目を見て話せない、という女性がいたのですが、僕はその人の描く、暗くて美しい絵を気に入っていました。

帰りの方向が同じだったので、よく電車で一緒になりました。僕は、彼女がたまに浮かべる笑みを見逃さないように顔を凝視し、小声でぼそぼそと喋る内容を聞き逃すまいと耳をそばだて、たまに目が合うと、僕のほうから逸らしてみたりしながら、ぎこちない会話を楽しんでいました。「こんな人だからあんな絵が描けるんだなあ」なんて思いながら。

ところが、夏休みが終わって久しぶりに学校へ行くと「木村くーん!」と大きな声で彼女が近寄ってきて、ニコニコ笑いながら、真っすぐに僕の目を見てベラベラ喋りだしました。あまりの変容ぶりに呆然とする僕。

僕たちは授業が終わってから喫茶店に行きました。彼女は「私は変わった!ポジティブ!」と満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに叫びました。話を聞いてみると、夏休み中に自己啓発系のセミナーに行って自己革命し、ポジティブ人間に生まれ変わったということでした。
僕は「よかったねー」と一緒に喜び、彼女の変身を祝福したのですが、一方で、「もうこの人とぎこちない会話が出来ないんだ。。」と少し残念な気持ちになりました。

「木村くんもセミナーに行きなよ。暗い性格がなおるよ!」と誘われましたが、僕は彼女のキリリとした視線をから目を逸らしつつ「そうだね、でも、一人でがんばってみるよ」と断りました。

彼女はきっと、地味な自分の性格をずっと変えたいと思っていたのでしょう。その願いがセミナーによって成就したのは喜ばしいことだし、勇気を出して行動したことに僕は感服しました。

自己革命的変身によって、彼女は自分が理想とする個性を作り上げましたが、では、彼女のようにアクションを起こせない人は、個性的になれないのかというと、僕はそう思いません。

もともと僕から見て彼女は、変身前から十分個性的でした。喋らない、声が小さい、人の目を見られない、そして素敵な絵を描ける。というのは彼女の素敵な個性だったのです。
だからもしあのとき彼女ともっと仲良くなって、「自分の暗い性格が嫌だ」と相談をもちかけられたとしたら、「そこが魅力じゃん!」と答えていたと思います。

「変われない、個性なんかない」と思っている人に対して、「そんなことないんだよ。あなたはすでに唯一無二の個性を持っているんだよ」という前提で、「だから素直に描いてみて」というのが、僕の考える「個性の引き出しかた」です。

素直に描いたものが、地味で平凡でどこかで見たことあるような絵であっても、ぜんぜんオッケーです。
人の顔や性格が絶対同じでないように、絵も絶対に人と同じにはなりません。他人とのほんの小さな違いが個性であり、僕が彼女の微妙な表情の変化に興味を持ったように、自分が思う以上に、人はその小さな個性の違いに気付き、関心を寄せてくれるのだと思います。

上の絵は昨年の秋から教室に通ってくれている成田汐織さんが描いたネコです。大好きな絵です。


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ABOUTこの記事をかいた人

1965年生まれ。セツ・モードセミナー卒業。1990年より創作活動を開始。 人間の顔をメインモチーフに、様々な表現法を駆使して作品を量産。2003年、バーチャルタレント集団 「キムスネイク」を生み出し、個性的なキャラクターのアニメーションを、テレビ番組やCM、WEB等で発表。 主な仕事:「ベストハウス123」「マツコの知らない世界」「GLAY」「VAMPS」など。 主な受賞:第7回イラストレーション誌「ザ・チョイス」大賞受賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバル(2010)など多数。 絵の講師歴25年。 神戸芸術工科大学非常勤講師