毎年この時期に5週連続で受け持っている神戸芸術工科大学1年生コラージュの授業。
東京から出向くからには、限られた時間を有効に使って、思いつく限りのことを伝えたいという気持ちがあり、作品制作は自宅でやってもらって、教室では課題作品の発表と、作品についてのディスカッションを中心に授業を展開しています。
これがとても面白く、18〜19才の瑞々しい感性に感服しきり。すこし内容をご紹介します。
まず、一人ずつ前に出て自作を披露し、作品コンセプトや、制作するなかで楽しかったこと、難しかったことなど、気付いたことを発表してもらいます。
それを受けて、クラスメイトたちが質問したり感想を言い合います。
そうするとによって、作者自身も気付かなかった創作の動機や、作品の奥に潜む意味などが浮き彫りになってきます。
本来は、絵に意味などなくて良いと思うし、一目で鑑賞者の心を奪うビジュアルのインパクトさえあれば、言葉による解説など不要でしょう。言葉にならないことを表現できるのが絵なので。
とはいえ、じつは言葉で説明しようと思えばできてしまうことも多々あるはずなので、いちど「言葉になり得ること」を洗い出してみると、それでもなお「言葉にならないこと」とは何なのかが、じわりと見えてくることもあるかと思います。
絵から喚起される言葉を出し尽くし並べてみると、作者が無意識のうちに表現しようとした作品テーマが顕在化してくることがあります。それを本人が自覚することは、自作を俯瞰し、客観性を養うための良い訓練になるような気がします。
さて、上にあるHくんの作品。
今回は「パラダイス(楽園)」というテーマで制作してもらいました。
黒い鳥は、人間を含めた生き物の象徴だそうです。
楽園の真中にぽつんと置かれた鳥かご。鳥たちはかごを脱出し、楽園を飛び回っています。
しかしこの楽園は、四方を檻で囲まれた有限の世界です。
檻から抜け出そうとして挟まり、身動きできない鳥もいます。
クラスメイトたちはHくんに、
「楽園=居心地がよいはずなのに、どうして逃げようとしているのか」
「右下の家のなかには誰がいるのか」
「檻の背景が白いのはなぜ?」
「虹の意味は?」
等々の質問をしました。
それらの質問に対して、作品の意図を説明したり、どうしてこうなったのか自分でもわからないと首をかしげたりして対応するHくん。
やり取りを繰り返していくうちに、だんだんと作品自体が語りはじめ、ストーリーが進んでいきます。
そのストーリーは、皆に共通していることもあれば、各々異なった内容に発展していくこともあります。
どちらにしても、初見ではわからなかった作品世界の広がりと、作者に対する興味がわいてくるのです。
僕は、Hくんの作品を衝撃的に受け止めました。
黒い鳥(≒私たち)たちが棲む小さなかごは、外敵から襲われることのない護られた空間。
ただ、ものすごく窮屈。
「かごの外には楽園が広がっているに違いない」
鳥たちは、勇気を出して外に出る。
そこは、想像していた通りの素晴らしい世界。どこまでも広がる自由な世界。
さらに高く遠くへ羽ばたこうとするや否や、檻の尖端が身体に突き刺さる。
かごの外に広がる楽園も実は檻の中、というメタ構造。
それぞれの世界を繋ぐ虹。
これは僕の解釈なので、はたしてHくんがそんなことを考えて作ったかどうかわかりませんが、こうやって様々な解釈を伝え合うことによって、作品が内包する多様な物語性に気付くことが出来るので、絵を囲んでみんなでああだこうだ言うのは、創造性を引き出すうえで非常に有効な方法だと思っています。
もうひとつ、Mさんの作品をご紹介。
Mさんは「酢いか」が大好きです。
酢いかほどではありませんがマグロとミックスナッツも好物です。
「酢いかハウスに暮らしたい〜♡」と満面の笑みで解説してくれました。
こんなにごちゃごちゃと貼っているのに、なんだろう?この安定感。
そして見ていて楽しい。ハッピーな気分になります。
「Mさんはコラージュを楽しむ才能がある。コラージュで人を幸せにする才能がある。コラージュ、続けてみれば?」と言うと、
「きゃ〜ほめすぎ〜!」と満面の笑みで叫んでいましたが、ほんとのほんとです。楽しみにしてます!