よく、「自由に描いてください」とか「楽しんで描いてください」などと言われますが、大人になってしまった私たちは、「自由!」「楽しい!」と心の なかで叫んではみるものの、すぐに「自由ってナンダ?」「楽しいってナンダ?」と、頭で考えてしまい、何をどう自由に楽しんでよいのかわからずにドギマギ します。
そんなときに有効なのが、枠をつくることです。「ここからはみ出ちゃダメですよ」とか「好き勝手に描いちゃダメですよ」とか。そうすると、「フン、少しくらいはみ出たっていいじゃないか」とか「フン、好きに描いてなぜ悪い」となり、自由意思が発動します。
どうも人間には、人から言われたことと反対のことを考えたり、やってしまう特性があるようですね(私だけでしょうか……)。
たとえば「好きな色を、好きなだけ使って描いていいよ」と言うと、「え、え、私の好きな色って?青も好き、赤も好き、黄色も好き、あ、灰色 も好き」となり、結局、絵の具箱にある24色ぜんぶを使い「あ、ぜんぶ好きだったのか」なんてことになり、いつまでたっても自分の好きな色が何なのかわかりません。
そこで、「黒だけで描いてね。他の色は使っちゃダメですよ」と、枠を設けると、描き進めるうちに、「ううう、どうしても、どうしても、色が使いた い」という欲求が芽生えます。そこで「じゃあ、1色だけ好きな色を加えていいよ」と許可します。すると「ううう、赤しかない!やっぱり私は赤が好き♡」と なります(ならないか笑)。
黒だけしか使えないとなると、黒でどこまで表現できるか、自然に創意工夫するようになるんですね。この創意工夫は、枠がキッカケで創出したものとい えます。そして枠内での創意工夫がマックスに達すると、自然な欲求として、色を使いたい、枠を壊したいとなり、ブレイクスルーが起こります。そのときに、 パワフルで自由な表現が生まれるわけです。
そんなことを、たびたび教室で目の当たりにしているので、たぶんひとつのアプローチとして有効なんだと思っています。
絵:Nori-Bee