ドローイング5講目は、「知覚の記録」です。
当教室ではいつも「生きた線を描こう!」と言っていますが、じゃあ生きた線とはなにか、という疑問がわいてきます。
そこで今回は「純粋輪郭画」という画法をテーマにしました。
「脳の右側で描け」(エルデ出版)という書籍でこのトレーニング法を知り、生きた線を引くのに有効な練習法だと思ったので、試してみることにしました。
やり方は簡単です。利き手と反対の手をすぼめて手の平にシワをつくり、利き手に持った鉛筆で、そのシワを画用紙に描いていきます。
制限時間は5分間。描いてるあいだ、紙を見てはいけません。知覚したシワを、ダイレクトに紙に記録するのです。
完成作品。
人は、幼少時代には見たままのものを、何の疑いもなく素直に描くことができます。というかそれしかできません。上手く描いてやろう、という意識もありません。だから、形はいびつであっても、生き生きとした絵が生まれるのでしょう。
ところが成長するにしたがって「もっと正確に描きたい」という欲求が芽生えてきます。これは自然の欲求です。すると、左脳が作動し、「目、鼻とはこういうもの」という先入観(概念)に縛られるようになり、自分の記憶なかにある象徴的な目や鼻を描くようになります。
そして、正確に描きたいと思うほど、先入観に依存してしまってモチーフをじっくり観察できず、結果、正確に描けなくなる、という矛盾が生じます。
・知覚したものを言葉とシンボルに素早く置き換えてしまう。
・言葉による知識が視覚による純粋な認知を圧倒すると、「正しくない画」になる。
・これまで蓄積した(他の場合には立派に役立つ)知識が、目の前にあるものをあるがままに見ることを妨げている。
・手のように見えるかどうかは問題ない。ほしいのはあなたの知覚の記録。
「脳の右側で描け」より
つぎ。同じように純粋輪郭画法で受講生同士を描き合いました。
左脳による言葉での確認を強制的に排除し、右脳の意識の状態を視覚的に記録するための練習が、この純粋輪郭画というわけです。
そして、「脳の右側で描け」のこの項の最後に、僕が常々感じている、「絵を勉強していくなかでの矛盾」についての、的確な解説があったので紹介します(少し言葉を変えています)。
根拠は十分に明らかにされていないが、純粋輪郭画は、描き方を学ぶ上で重要な課題の一つである。しかしそこにはパラドックスがある。
純粋輪郭画は一見デタラメのようで、一般的な評価では「上手く」描けているとは言えないのだが、「上手く」描けるようになる上で、効果的な最高の課題である。
しかも重要なことに、この課題は、子供の頃の驚きや普通のものに美を見出す感覚を蘇らせてくれる。
これ、ものすごく重要です。
教室でやっている課題すべてがここに繋がっているといっても良いです。
僕はいつも、「上手く描く必要はない、デッサンがくるっていても関係ない。線が生きていればOK!」と言っているのは、このパラドックスを踏まえてのことです。
五感を駆使して対象物から美を見出し、描く行為を楽しむことが、結果的に描画の上達に繋がると思っています。
純粋輪郭画はここまでです。
つぎはリレーデッサン。
絵の伝言ゲームです。
これも、言葉での認識ではなく、何も考えずに前の人の絵を見て描く、という右脳モードの作業です。
マネして描いたつもりでも、人によって線の取捨選択が異なり、知らず知らずのうちに個性が出てきてしまいます。
おまけ。
時間が余ったので、「記憶デッサン」をやりました。
30秒間眺めたあとに記憶をたよりに描きます。
モチーフはシャイニングのジャックニコルソン。
以上、右脳モード全開てんこ盛りの二時間でした。