1月のプロジェクト「RED」

2/25 update
YUZO
岸裕三「山と娘」
この絵を眺めていると、絵は気持ちで描くものなんだなあと、改めて感じ入ります。頭で考えたテクニック偏重の絵は、そのテクニックがズバ抜けていない限り、作者の狙いとは裏腹に稚拙で痛々しい作品になってしまいます。中途半端なテクニックに溺れるくらいなら、ただただ気持ちを込めて描いたほうが百万倍よいです。そういう絵のほうが人の心を打ちます。
この絵、空の抜け感が良いですね。他は割と厚塗りなのに対して、空は水っぽく、透明感があります。裕三いわく、ここは敢えて薄いまま残したそうです。
巧みな筆さばきも絵の技術のひとつの要素ではありますが、素直に描き、塗った色を眺めて「きれいだから残す」と判断を下すことは、技術というよりも、美を判断する術、つまりは「美術」といえるのかもしれず、この感覚を磨いていくことが、絵の勉強で最も大切なことだと思います。

shizun
尾上静音「葉の内面」
画面に顔を近づけ凄まじい集中力で様々な模様の葉脈を描きまくるしっづんは、きっと無我の境地なのでしょう。時間をかけて、じっくりと、画面の中に魂を封じ込めたのではないかと思います。
この絵を眺めていると、しっずんの内面が浮かび上がってくるようです。きっと「葉の内面」であり「私の内面」なのでしょう。
絵の制作は、自分の内面を具現化する行為でもあります。しかし、「私の内面を表現したい」という気持ちで挑むと、大抵は失敗します。ひとりよがりの絵になってしまいます。
淡々と、無心で集中した結果、自然と絵に宿る、ひとりよがりでない「私の内面」は、絵を鑑賞する人の内面と共鳴し、そこに感動が生まれたりするのだと思います。
なんてなことを考えると、やはり絵もタイトルも秀逸。しっづん恐るべし!高校生!
zeki
山中美里「赤いベンチの公園」
ゼキちゃんは、現在制作中のアニメーション「試される赤ずきん」に出てくるキャラクターをモチーフに制作しました。これはもう、誰が見ても、まぎれもなくゼキコワールドですね。
もともと絵が上手だったゼキちゃんですが、僕が「おっ、これは」と思ったのは、教室の課題でビレッジピープルを描いたときでした(こちら)。これがゼキコスタイルの原型なのでは?と僕は思っています。
オリジナリティは、与えられたテーマを一つ一つ丁寧にこなしていく地味な工程のなかから生まれるものだと思います。その瞬間はいつやってくるかわかりません。頭で考えても出てきません。「手を動かし続ける」姿勢のなかから出てきます。ですから、「個性とは姿勢である」と言えるかもしれません。
いちどスタイルを発見したなら、あとは横に展開すればよいのです。今回のゼキちゃんのように、アニメから一枚絵、一枚絵からグッズ、その他、絵本やラインスタンプなど、どんどん幅を広げていくことによって、揺るぎない世界観が構築されます。ゼキコワールドの爆発に期待しています!
maripori
岩本麻梨恵「夢の中」
まりぽりさんは、普段描いている線画のオシャレタッチではなく、赤の色鉛筆とペンのみを使い、下書きはせず、ボードの左下から、心の赴くまま、手の動くままに画面を埋めていきました。
いつもと違うことを何も考えずに楽しみながらやってみると、フッと面白い表現が生まれることがあります。それをいつもの絵にフィードバックさせることによって、いつもの絵は味わい深いものに育っていくような気がします。だから、いろいろと新しい表現にチャレンジしていくことは、一見、無節操に感じることもあるかもしれませんが、戻る場所(まりぽりさんの場合は線画のオシャレ画)がある場合は、やったこと全てが役に立ちますし、表現者としての底力がついてくると思います。
yamagami
山上典子「バナビラ」
摩訶不思議な作品ですね!この作品が生まれた経緯を僕の目撃談としてお伝えします。
雑誌のなかから「赤っぽい部分」を集める→集めた素材を四角に切り何も考えずにイラストボードに貼る→翌週、素材の隙間に赤ボールペンで「赤」「RED」の文字を一心不乱に書きまくる→翌週、苦労して書いた「赤」「RED」の文字を赤ボールペンで塗りつぶす。カリカリとものすごい音をたてて。一心不乱に→コラージュと赤ボールペンで埋め尽くされた画面に白(ジェッソ)で花びらを描く。あ〜緊張する〜と叫びながら→白の花びら部分を赤く塗る→翌週、ポスカ登場。花びらにディテールを描き込む→完成!
このように、山上さんは、何も考えずに手を動かす→見て考える→悩む→ひらめく→一心不乱に手を動かす、という創作の醍醐味を味わいつつ作品を完成させました。
このアプローチはけっこう病み付きになります。山上さんもぜひ病み付きになって面白い作品を生み出してくださいね。楽しみにしています。
yamamoto
山本ノリヒト「熱闘」
これまで一貫して黒のマジックを使って逆さ一発描きロッキーを制作してきたノリビーさんですが、そのなかで培った技が、この赤作品にも生きていると思います。複数の技法を同時に勉強するのも良いですが、まずは一つのことを徹底的にやり尽くしてみると、案外容易に別の表現に移行できたりします。例えるなら、同時に二つの山には登れないけれど、一つの山に登ってしまえば、あとは橋を掛けて隣りの山に移動するだけ、みたいな。
tashiro
田代シュリ「スペシャル・ケーキ〜はりきって作り過ぎ〜」
すごい存在感ですね!やや左に傾いているのは狙いでしょうか。ドッシリと安定感がありながらも「崩れるかもしれない」という一抹の危うさもあったりして、それが作品の魅力となっていますね。
背景の左右描き分けもうまくいきましたね。全体の存在感も大事ですが、最後のこまかいひと手間で絵はグッと良くなります。画竜点睛、ですね。
KATO
加藤リサ「月の花嫁」
赤とブルーのコントラストがキレイですね。塗りも丁寧で良いす。リサさんは、コラージュと1分ドローイングも得意なので、そちらも並行して量産してくださいね!
KYORO
山岡恭子「大きな赤い鳥」
大胆な構図がナイス!キョロちゃんは、快画実践のときもそうですが、制作時のパッションを画面に映し出すのが得意です。一撃必殺スタイルで突っ走ってくださいね。
NARITA
成田汐織「魔除け」
それぞれのモチーフ(だるま、赤とうがらし、台)を別描きで丁寧に切り取り、ボードにはり付け構成した労作です。
一言でいうと「バーン!とした作品」ですね。この「バーン!」とした感じというのは、絵にはとても大切な要素だと思います。
画面から飛び出すほどの迫力。これは成田さんの強力な武器なので、是非これからも「バーンとしたワタシ」を自覚しながらバーンとした作品を制作してくださいね。
OGURA
小倉智子「猫」
普段のメインモチーフは、智子さんが飼っているワンちゃんのALIちゃんですが、今回は猫が題材です。様々なタッチの猫をコラージュっぽく構成していて、見どころ満載の作品ですね。
今回、智子さんは、通われている会社に飾ってあるお気に入りの作家さんからインスパイアされ、このアイデアを思いついたそうです。
お気に入り作品のひとつの側面をキッカケに創造性を膨らませることは、個性の領域を拡げるのに非常に効果的です。これからもどんどん新しい表現にチャレンジしてくださいね!
HIRANO
平野健介「メタモルフォーゼ」
平野さんのこの作品、僕は「おっ」と思いました。なぜかというと、僕が大好きな往年のイラストレーター・吉田カツを彷彿とさせる風景画だったからです。カツさんの作品はこちら
なんか、ちょっと似てますよね、ストロークが。これを教室のへなちょこ筆で描きあげたのですから、まさに弘法筆を選ばず!。もしかしたら平野さんはこの絵の凄さを自覚されていないかもしれませんが(ということはマグレかもしれませんが(うそ、実力です!))、とにかく良い絵なので、良い絵の誕生を皆で喜びましょう!
TAIGA
たいがともこ「モミジアラシ」
たいがさんの作品は、現在制作中のコラージュアニメーションと連作になっています。黒ネコ秀逸ですね!周りのコラージュと背景の塗りの調和が気持ち良いです。
先日たいがさんは「いかに作為的にならずに描けるか、が今のテーマ」とおっしゃっていましたが、よいテーマを掲げていると思います。そういう試行錯誤(というか思考実験)を繰り返しながら制作することは、ものすごく大切だと思います。つぎは「いかに作為的に描くか」という実験も面白いかもしれませんね。
TAKKAMATSU
高松直人「Field」
独自のタッチを生み出し邁進する高松さんは、たっぷりと水を含ませた赤の絵具をボードに垂らし、椅子から立ち上がって、クネクネと身体とボードを揺すりながら、タラーッと流れ落ちる絵具の軌道を目で追います。そしてこんどは小刻みに手元を震わせて絵具の軌道をコントロールします。
絵具が行きたいところに行かせる絵具主導の時間と、絵具をコントロール下におく作家主導の時間が交互にバランスよく混ざりあったとき、傑作は生まれるのだと思います。そういう「絵との戯れ」に気付いてしまった高松さんが、「絵の中毒」になるのは時間の問題ですね、きっと。いやもうなってるか笑。このままずんずん深化していってほしいです。
総評
同一テーマで制作するプロジェクトの第一回目は、想像以上に力作揃いで驚きました。僕が何よりも嬉しかったのは、作品の傾向が偏っていないことです。見事なまでに作風がバラバラ笑。
個人が主宰している教室にありがちな、講師の絵に似ている作品もありませんでした。(僕の絵は)怖すぎて真似できない、というのもあると思いますが……笑。
時折開催している快画のワークショップでは、一瞬で個性炸裂画を生む術をやっていますが、個性を発見し、それを自分の戦術にして、自覚的に常時作品に反映できるようになるには、やはり時間がかかります。そもそも時間がかかるものなので、焦らずに、じっくりと、気持ちを込めて、丁寧に目の前の課題をこなしていくことが重要です。
今回のプロジェクトでみなさんは、まさに目の前のことに一点集中、かつ遊びゴコロを持ち、楽しんで制作していたように思います。だんだんと「アーティスト脳」が育ってきましたね。ジワジワと底力がついてきました。嬉しい限りです。

僕としては「この教室から人気スター選手を生みたい」という秘かな野望もあったりしますが、いまの時流に合わせ、策略で描いた付け焼き刃の絵で刹那的に売れるのではなく、創作の魔力にとりつかれ、無我夢中で描いているうちに、ずん、ずん、と自分の世界が育ち、拡大して、気がついたら時流が寄りそってスターになっていた、というのが理想です。「気がついたら」といいつつも、そういうプロセスを、偶然ではなく、確信犯的に遂行していきたいと思っています。
そういう意味でも、今回は「魔力にとり憑かれているような」作品が多く、「よしよし、その調子!」と嬉しくなったのでした。

みなさん、おつかれさまでした!ラインスタンプも楽しみにしています!